"統一教会"めぐる陰謀論に注意 安倍元首相銃撃で市長らも拡散
参院選の最終盤で安倍晋三元首相が銃殺されるという衝撃的な事件から10日。
事件からまもなく、現場で取り押さえられた容疑者が「特定の宗教団体に恨みがあり、関係が近い安倍元首相を狙った」と供述していることが伝えられました。
それが、いわゆる「統一教会」(現・世界平和統一家庭連合)のことと判明するや、メディア等で「統一教会と政治(特に自民党)の関係」がクローズアップされています。
事件の衝撃も冷めやらぬ中、陰謀論的な言説も急速に広がっています。ここで、見過ごしにできない事例をいくつかとりあげたいと思います。
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なお、私は、統一教会の問題を見過ごしにしてよいという立場ではありません。ただ、衝撃さめやらぬ中での性急な言及、スポットライトの当て方、加熱ぶりに、強い危惧を覚えています。詳述しませんが、本稿の趣旨に違和感を覚える方は、以下のツイートもあわせてご確認いただければ幸いです。→ 7/8、7/9、7/13、7/14、7/15、7/17
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統一教会が自民党議員に命令して「子ども家庭庁」に名称変更させた?
まず、こちらです。
「子ども庁」ではなく「子ども家庭庁」に変更させたとのこと。
自民党が、子どもへの責任を、家庭に押し付け、
子どもに冷たい政治を続けている背景には、
『統一教会』の存在が大きいとも言われている。
マスコミよ、きちんと事実を報道していただきたい。
菅義偉政権が2021年4月に創設の方針を表明した「子ども庁」は、最終的に「子ども家庭庁」という名称で発足することになりました。この背景に「統一教会の命令」があったというのです。
この言説について、現時点で確認できた事実関係を整理すると、次の通りです(日本では2015年に「世界平和統一家庭連合」に名称変更されていますが、便宜上「統一教会」と記します)。
▼確認できた事実関係
(1)泉市長がツイートに貼り付けたのは「5ちゃんねる」という"まとめサイト"に投稿されたイラストの画像ファイル。しかし、作成者も出所も不明。泉市長はそれ以上の根拠を示していない。
同日の再投稿でも「『統一教会(国際勝共連合)』と「子ども家庭庁への名称変更」の関係も、当然にご存じのはずで、永田町では、いわば”公然の秘密“」と、事実であるかのように強調しているが、何の具体的根拠も示していない。
(2)ネットでは、国際勝共連合が「子ども家庭庁」への名称変更を誇らしげに紹介している記事を根拠に同様の言説が広がっているが(例)、同サイトで確認できた記事は名称変更が決まった2021年12月以降で、わずかしかない。世界統一家庭平和連合のサイトでは一つも見当たらない(7月18日現在)。これら団体が従前から「子ども庁」からの名称変更を訴え続けていた痕跡が確認できない。
(3)国際勝共連合サイトの記事には「『子ども家庭庁』の創設にあたっては、山田太郎・自見英子両参院議員が立役者となった」と書かれているが、山田議員らは当初「子ども庁」の創設を提言していた(特設サイト、同議員公式サイト、自民党サイト参照)。
これを受け、菅首相も自ら「こども庁」創設に意欲を表明していた(2021年6月18日)。だが、岸田政権に交代後の自民党は、2021年衆院選公約に盛り込まず、同年12月「子ども家庭庁」の名称変更を了承した。その際も、山田議員は「子ども庁」であるべきとの反対意見を表明していた。
(4)一方、自民党に先駆けて「子ども家庭庁」の名称での創設を提唱したのは、公明党だった(2021年6月2日、骨太の方針提言、2021年衆院選の公明党の公約)。
その後、「子ども家庭庁設置法」は成立したが、公明党は「設置を強く推進してきた」「(設置法法案は)公明党の主張を反映したもの」と、自らの主張が反映されたことを何度も強調している。実際、2021年から「子ども家庭庁」設置を求める記事を数多く掲載していたことは、同党公式サイトから確認できる。その言及量は統一教会系サイトと雲泥の差だった。
もちろん、「家庭」の価値を重視する考え、「子ども家庭庁」への変更を支持する考えは自民党内にも、統一教会系団体にもあり、名称変更に影響が全くなかったと断定するつもりはありません。
しかしながら、全体的な客観的経緯としてみれば、(ネット上で統一教会との関係について言及されることもある)自民党議員らは「子ども庁」設置を求めていたのに対し、「子ども家庭庁」を強く推進し、実現をリードしたと誇示しているのは公明党の方だったのです。
こうした一般に公開されている経緯を踏まえてもなお、「統一教会が自民党議員に命令して名称変更させた」という根拠があるのでしょうか。
犯行前の手紙を報道した読売新聞は統一教会と関係あり?
もう一つ、泉氏の看過できない投稿を取り上げておきます。
『統一教会』と安倍元総理は無関係であり、
山上容疑者の勘違いであったかのように、
必死に“論陣”を張っておられる。
『読売新聞』も『統一教会』と、
何か関係でも、おありなんだろうか?
事実に基づく“冷静な報道”を切に願う。 yomiuri.co.jp/national/20220… 安倍氏は「本来の敵ではないのです」…山上容疑者、旧統一教会批判の男性に事件前に手紙 安倍晋三・元首相(67)が奈良市で銃撃されて死亡した事件で、逮捕された山上徹也容疑者(41)が事件直前、岡山市内から、安 www.yomiuri.co.jp
安倍元首相を射殺した容疑者が、犯行直前に動機について綴った手紙を送っていたことが、読売新聞7月17日朝刊で明らかになりました。この中で「安倍氏は本来の敵ではない」といった記述があることも判明しました(手紙全文)。
この報道について、泉氏は「『統一教会』と安倍元総理は無関係であり、山上容疑者の勘違いであったかのように、必死に“論陣”を張っておられる」と疑問視しましたが、そんな趣旨のことはどこにも書かれていませんでした(読売新聞の記事1、記事2)。
泉氏は「読売新聞と統一教会の関係」を疑うコメントもありましたが、これは明らかに読売新聞のスクープです。一斉に、全メディアが後追い報道しました(Yahoo!ニュース参照)。泉氏の理屈からすれば、全メディアが統一教会との関係性を疑われることになります。
何か不可解なこと、自分の認識と異なる情報があると、ある勢力やキーワードと結びつけたがるのは、陰謀論的な言説の典型的な特徴です。
一般の匿名ユーザーの投稿ならまだしも、泉市長は、公職者であり、弁護士資格があり、NHK出身のジャーナリストでもあった人です。
その影響は甚大で、公職者としてあるまじき情報発信ではないかと思います。この問題を見て見ぬふりをするのか、メディアや「統一教会と政治の関係」の解明に熱を上げているジャーナリストの動向にも、注目したいと思います。
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