テレ朝「玉川発言」問題 郷原氏との対談で浮き彫りになった5つの論点

安倍元首相の国葬の演出をめぐり、テレビ朝日コメンテーター玉川徹氏が事実に基づかない発言を訂正した問題。郷原弁護士との緊急対談を踏まえて論点を整理した。
楊井人文 2022.10.14
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先日、郷原信郎弁護士とYouTube番組で対談させていただきました。テーマは「国葬の法的根拠」と「玉川発言問題」。両方とも論点が盛りだくさんで、予定時間をオーバーしてしまったのですが、何とか編集で1時間以内に収めていただきました。

できるだけ多くの方にご覧いただきたいのですが、ここでは「玉川発言問題」を中心に、郷原さんとの議論を通じて浮き彫りになった論点を整理しつつ、私の考えを述べたいと思います(「国葬の法的根拠」に関する議論は、機会をみて別稿に譲ります)。

郷原弁護士と対談に至った経緯 

郷原さんはご存知のとおり、検事出身の弁護士。コンプライアンスをはじめ数多くの著作があり、様々な社会問題について積極的に発言されてきた方です。私と同様、Yahoo!ニュース個人オーサーであり、このニュースレターでも配信しておられます

私からみて法曹として25年も大先輩になります。そんな郷原さんとの接点は、約8年前、私が日本報道検証機構/GoHooを運営していた頃にさかのぼります。

当時、全国最年少市長として注目されていた藤井浩人・美濃加茂(みのかも)市長の収賄事件の裁判が行われていました。名古屋まで出張して裁判の取材をしながら報道内容を検証していたのですが、無罪を主張していた藤井市長の弁護団長が郷原さんでした。メディアの誤報を指摘した郷原さんのコラムをGoHooに転載させてもらったこともあります(GoHooは2019年閉鎖。アーカイブサイトの当時の記事はこちら)。

郷原さんとは最近、私が発表した安倍元首相の国葬の法的根拠に関する記事についてツイッターで紹介していただいたことをきっかけに、メールで意見交換をするようになりました。先日theLetterで配信した記事は、その議論も踏まえつつ、私なりに問題の所在を整理して書いたものです(郷原さんの論考は論座など参照)。

そうした中、今度はテレビ朝日の著名なコメンテーター、玉川徹氏が国葬に電通が関与していた発言し、事実ではなかったと謝罪する問題が起きました。この問題についても郷原さんがYahoo!の記事(10月7日)を発表されたので、意見交換をさせてもらっていたところ、一度しっかり議論しましょうと、今回の対談にお誘いいただいたという次第です。

「玉川発言問題」とは

改めてこの問題の経緯を振り返っておきます(以後「玉川発言(問題)」と表記することにします)。

玉川徹氏は、テレビ朝日の情報番組「羽鳥慎一モーニングショー」レギュラーコメンテーターを担当してきた、同社の社員。歯に衣着せぬコメントで人気があり、高視聴率の立役者とも言われています。

玉川氏は、安倍元首相の国葬に関して一貫して批判的なスタンスでコメントしてきたようですが、問題の発言が飛び出したのは国葬翌日、9月28日の放送。玉川氏が、政治利用が行われる国葬には反対だと明言した後、菅義偉前首相の弔辞についてスタジオで議論が行われていたときのことでした。

他の出演者が、菅氏は自分の感情を語ったからこそ心に響いたという趣旨の発言をしたのを受け、玉川氏は次のように発言したのです。

僕は演出側の人間ですからね。テレビのディレクターをやってきましたから。それはそういう風に作りますよ、当然ながら。政治的意図がにおわないように、それは制作者としては考えますよ。当然これ電通が入ってますからね
(羽鳥キャスターらが「ここは本当に自然に言葉が出たのか…」などと口を挟んだ後)
いや、菅さん自身は自然にしゃべっているんですよ。でもそういうふうな、届くような人を人選として考えているということだと思うんですよ。
9月28日放送「羽鳥慎一モーニングショー」での玉川氏の発言。筆者のYahoo!ニュース個人参照

この発言について、玉川氏は翌日の放送で、国葬に電通の関与していたというのは「事実ではなかった」と訂正、謝罪しました。

その後も批判は鳴りやまず、テレビ朝日は問題発言から6日後の10月4日付で、玉川氏を10日間の謹慎処分にしたと発表します(NHK参照)。

すると、郷原さんはYahoo!に、テレ朝の対応を批判する論考を発表しました。その主旨は次の部分です。

玉川氏の発言は、安倍元首相の国葬の直後、その国葬での菅前首相の追悼の辞が大きな社会的注目を集めている最中に、それに関連して客観的な裏付けがないのに「電通関与」を決めつけるような発言をした点において軽率の誹りを免れない

しかし、それ以外については、放送法上も、コンプライアンス上も、特に問題があるとは言えない。番組で訂正・謝罪を行った後も、会社として、発言の趣旨を正確に理解した上で、批判や、政治家の圧力等に対しても毅然たる対応をとるべきだった

この記事から2日後、私は玉川発言の文字起こしを公開しました。それは「玉川発言」の趣旨の理解について、郷原さんと少し齟齬(ずれ)があると感じたからでした。その頃、スポーツ紙が不完全な文字起こしを配信しており、これをベースにすると、議論が混乱する可能性があることも念頭にありました。

その後、郷原さんとの対談などを通じて、どの点で見解が一致し、どの点で違いが生じたのかが、より明確になったと思いますが、改めて整理しておきたいと思います。

私なりに整理したこの問題の論点は、以下の5つです。

(1)玉川発言の趣旨は何であったか
(2)玉川発言をどう評価するか
(3)玉川氏の訂正・謝罪は十分だったか
(4)西田議員の発言をどう評価するか
(5)玉川氏を謹慎処分にしたテレビ朝日の対応をどうみるか

(1)玉川発言の趣旨は何であったか

まず、玉川発言の趣旨についてです。発言を評価するにあたっては、発言内容を確認しつつ、その意味内容(趣旨)を理解する必要があります(発言内容の詳細はこちら)。ここが最大の難所です。

普通は一回しか見ないテレビでの発言を聞いて受ける印象は、人それぞれ違いが出てきて当たり前です。「どういう発言をしたか」という"発言事実"は文字起こしなどで客観的に何度でも再確認できる一方、「その放送時点で、発言がどういう意味で受け取られたか」という"発言趣旨"は、"発言事実"から自動的に導かれるものではなく、どうしても解釈や「初めて聞いた時に受ける印象」への想像が入るからです。

郷原さんは、Yahoo!の記事で「多くの批判で前提とされているように、『菅氏の追悼の辞に演出が入っている』という意味なのかどうかである」と指摘しています。その上で、次のように、玉川発言の趣旨について説明しています。

玉川氏は、「菅首相の追悼の辞は『心情を吐露した』ものであり、それが『胸に刺さる』と評価した上で、ただ、それは、全体として『胸に響くように作られた国葬という儀式の一コマだ』」と言ったのであり、菅氏の追悼の辞が『演出のために他人が作ったもの』という意味で言っているのではない、と。

玉川氏の発言全体の趣旨は、「安倍氏の国葬が『政治的意図を隠して、胸に響くように作られた儀式』」であったというものであり、それを前提に問題がないかどうかを検討すべきである、と。

この解釈(便宜上「A説」といいます)に立てば、玉川発言は、ことさらに菅氏の弔辞における演出性あるいは電通の関与について述べたものではないと理解されます。

一方、私は、玉川氏の発言趣旨について、多くの一般視聴者が初見で聞けば、次のような印象をもつだろうと解釈しました。

国葬は「政治的意図を隠して胸に響くように作られた儀式」であると同時に、菅氏の弔辞についても、政治的意図がにおわないよう制作者(電通)が関与している、と。

この解釈(便宜上「B説」といいます)に立てば、玉川発言は、菅氏の弔辞における演出性あるいは電通の関与についても述べたものと理解されます。

ほとんどのメディアは、この問題発言直後から玉川発言を「菅氏の弔辞」に関するものととらえて報道していました

ただ、郷原さんも、番組でもおっしゃっていたと思いますが、玉川発言に菅氏の弔辞に電通が関与したという趣旨が含まれていること自体を全面的に否定しているわけではないと思います。郷原さんが強調されたのは、玉川氏のポイントはあくまで「国葬全体の演出」であって、菅氏の弔辞にフォーカスを当てたものではないということでした。

では、A説とB説の違いは何か。私は次のように整理しています。

A説は、玉川氏の発言全体の意図・主眼は国葬全体についての演出の問題にあり、菅氏の弔辞に電通が関与があったという含意があったとしても、そこに焦点を当てた発言ではなく、本質的な部分ではないと考える。一方、B説は、菅氏の弔辞に電通の関与があったという含意も明確に伝わり、視聴者にインパクトを与える軽視できない部分と考える

この評価の違いが、次の「玉川発言をどう評価するか」「玉川氏の訂正・謝罪は十分だったか」という論点にも影響してきます。

(2)玉川発言をどう評価するか

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続きは、3192文字あります。
  • (3)玉川氏の訂正・謝罪は十分だったか
  • (4)西田議員の批判発言をどう評価するか
  • (5)玉川氏を謹慎処分にしたテレビ朝日の対応をどうみるか
  • まとめ

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