Jアラート「ミサイル発射」は偽情報では?"大本営"発表に追随するメディアの責任【追記あり】
メディアやネット上に「北朝鮮ミサイル発射」の「Jアラート」が鳴り響きました。
発出時の第一報(11月21日22時46分)は「ミサイル発射。ミサイル発射。」です。
解除時の第二報は(同日23時15分)は「ミサイル通過。ミサイル通過。」です。
アラートの対象は沖縄県だけですが、全メディアが一斉に流しました。
発出されたのは29分間ですが、メディア(特にNHK)は解除後もしばらくこのニュースばかり流していました。
正直、人騒がせだ、物々しすぎる、うさんくさい、うんざり、と感じた人も少なくないのではないでしょうか。
実際にアラートを聞いた人は、不気味な音声に恐怖感を覚えた人も少なくないと思います(ほぼ同じ内容の音声はこちらで聴けます。気持ちが悪くなる可能性がありますので、注意してください)。
このような政府発表、それに追随するメディアの報道に問題はないのでしょうか。経緯をふりかえりながら考えてみます。
事前通報は「人工衛星」打ち上げ
まず、北朝鮮は「人工衛星」を発射するとの事前通報を、日本の海上保安庁に対して行っていました。
実際には予告期間より少し前、21日22時台に発射したとみられますが、そこで政府が「Jアラート」で流したのが「ミサイル発射。ミサイル発射」の文言です。メディアも一斉に流しました。
ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射されたものとみられます。建物の中、又は地下に避難して下さい。
受信日時 21日22時46分
対象地域:沖縄県
北朝鮮からミサイルが発射されたものと みられます。 建物の中、又は地下に避難して下さい。 Jアラート対象地域:沖縄県(22:47)
#nhk_news www3.nhk.or.jp/news/ NHK NEWS WEB|NHKのニュースサイト NHKのニュースサイト「NHK NEWS WEB」。国内外の取材網を生かし、さまざまな分野のニュースをいち早く、正確にお www3.nhk.or.jp
テレビのアナウンサーも「ミサイルが北朝鮮から発射されました」と繰り返し放送していました。
そして、Jアラートは29分後に解除されました。
ミサイル通過。ミサイル通過。先程のミサイルは22時55分頃、太平洋へ通過したものとみられます。避難の呼びかけを解除します。不審な物には決して近寄らず直ちに警察や消防などに連絡して下さい。
受信日時 21日23時15分
対象地域:沖縄県
韓国は当初から「軍事衛星」と発表
一方、韓国は、発射直後から「北朝鮮の主張する軍事偵察衛星」を発射したと発表していました。
同じ頃、NHKも、日本の「防衛省関係者」が「人工衛星」の打ち上げと見ていることを流していました。
北朝鮮発射は「人工衛星」打ち上げか 防衛省関係者(23:02)
#nhk_news www3.nhk.or.jp/news/ NHK NEWS WEB|NHKのニュースサイト NHKのニュースサイト「NHK NEWS WEB」。国内外の取材網を生かし、さまざまな分野のニュースをいち早く、正確にお www3.nhk.or.jp
つまり、北朝鮮の動向を監視している軍事当局は、予告された通り「人工衛星」の打ち上げロケットの発射とみていたわけです。
公式発表ではしれっと言い換え
各メディアがJアラートの発表どおり「北朝鮮ミサイル」と報道し続ける中、21日夜の緊急記者会見で、松野官房長官は「弾道ミサイル技術を使用した発射」と発表しました。
松野官房長官は、北朝鮮が21日22時43分ごろ、
北朝鮮北西部沿岸地域のトンチャンリ地区から南方向に弾道ミサイル技術を使用した発射を強行したと発表しました…
深夜に政府が公表した文書にも「衛星打ち上げを目的とする弾道ミサイル技術を使用した発射」と記載されていました。Jアラートの発出にも言及していましたが、「ミサイル発射」と発表したことについては記載されていませんでした。
北朝鮮による弾道ミサイル技術を使用した発射に係る関連情報を掲載しました。
kantei.go.jp/jp/content/000…
弾道ミサイルと人工衛星は別物
いうまでもなく、軍事目標を破壊する目的のミサイル(兵器)と、人工衛星を打ち上げる目的のロケットは、共通する技術を使い、構造もかなり似ているとされますが、別物です。
まず、軌道や高度が大きく異なります。下の図のように、弾道ミサイルは上向きに撃ち、標的に向かって落下していきます。人工衛星打ち上げは、軌道に乗せるため、やや横向きに発射されます。
弾道ミサイルと人工衛星の飛行形態の違いを説明した図(防衛白書2009年)
大きさも異なると指摘されています。
北朝鮮の弾道ミサイルにはそれぞれ名前がついていて、最大の「火星17」が20メートル超ですが、人工衛星打ち上げに使われている「テポドン2派生型」と日本が名付けているロケットは30メートルくらいあります。
ミサイルは移動できる輸送起立発射機(TEL)もしくは潜水艦から発射されますが、衛星ロケットは固定された発射場から打ち上げられます。
ミサイルの標的(落下地点)は通常予告されませんが、人工衛星の場合は事前予告されます。2012年の「人工衛星」発射の時の図がこちらです。
今回も、事前通報を受けて、NHKは、中国大陸と韓半島に挟まれた黄海とフィリピン沖と落下予想地域と伝えていました。これをみれば、かなり離れていることがわかると思います。
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は、軍事偵察衛星を搭載した新型ロケット「チョルリマ(千里馬)1型」の打ち上げをソヘ(西海)衛星発射場で実施したと発表したとのことです(NHK)。写真を見る限り、かなり大型のロケットとみられます。
もちろん、発射が失敗すればどこに落下するかわからないというリスクはゼロではありませんので、注意を呼びかけること自体を否定するつもりはありません。
ただ、北朝鮮に限らず、あらゆる周辺国の「衛星ロケット」発射は事故による落下リスクがありますので、今回「Jアラート」で避難を呼びかけるなら、他国のロケット発射でも同様にしなければならなくなるはずです。
(この後の主な内容)
・表記が分かれたメディア 2016年との違い
・政府への疑問提起をしないメディア
・【11/23追記】沖縄紙が「ミサイル発射」の問題指摘、官房長官は不自然な弁明
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- 表記が分かれたメディア 2016年との違い
- 政府への疑問提起をしないメディア
- 【11/23追記】沖縄紙が「ミサイル発射」の問題指摘、官房長官は不自然な弁解
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