「他者に感染させないための措置」廃止提言に全国保健所長会も賛同意見 メディアはまた黙殺
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の法的な位置付けを季節性インフルエンザと同じ「5類」に変更する方針を岸田文雄首相が表明しましたが、主要メディアは、コロナ禍で中心的な役割を果たしてきた感染症専門家らの慎重論を中心に伝えています。
そうした中、コロナ対策の実務を担ってきた保健所を束ねている「全国保健所長会」が、公衆衛生倫理などの専門家有志が提言した「他者に感染させないための措置の対象からCOVID-19を外す必要」との見解に賛同するとの意見書を厚労省に提出していたことがわかりました。
1月23日に開かれた厚労省の専門部会の議論は、各メディアとも大きく報じましたが、この全国保健所長会の意見書は全く報じていませんでした。その意見書の概要と「黙殺」された理由や、もうひとつの重大な「黙殺」についてお伝えします。
『楊井人文のニュースの読み方』は、今話題の複雑な問題を「ファクト」に基づいて「法律」の観点を入れながら整理して「現段階で言えること」を、長年ファクトチェック活動の普及に取り組んできた弁護士の楊井がお届けしております。
大手メディアが報じる内容やインフルエンサーの発言をうのみにせず、事実や法律に基づいた重要な論点を知っておきたい方に向けて、だいたい週1本以上のペースで執筆することを目指します。
近日中にお届けする予定のテーマは次のとおりです。
・「5類移行でこうなる…?」不安をあおる根拠不明情報の数々
・若者の心筋炎の健康被害認定が増加 コロナワクチン審査状況の速報
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報道されなかった意見書
岸田首相がCOVID-19の法的位置付けの見直しをめぐって、「5類」への移行を表明したのが先週末の1月20日のことでした。そのため、週明けの23日に開かれた厚労省の感染症部会の議論はメディアの注目を集めました。
部会の配布資料は厚労省サイトに公開されました。全部で5つの資料があり、どれも重要ですが、私が特に注目したのは、次の2つです。
・「今後の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策における倫理的法的社会的課題(ELSI)の観点からの提言」(資料3)
・「新型コロナウイルス感染症患者の隔離・行動制限措置の問題について(意見)」(資料4)
資料3は、公衆衛生倫理などの専門家有志9人がまとめた提言書(1月11日)。これまでの行き過ぎた対策の転換を迫る、非常に画期的な内容なのに全く報道されなかったため、Yahooニュース個人で詳報しました。
もうひとつ資料4は、全国保健所長会会長の厚労省健康局長に対する意見書(1月16日)。全国保健所長会のサイトでも公開されていましたが、私は厚労省のサイトで初めて知りました。その内容は、資料3の提言書に「深く賛同する」と表明した意見書でした。
全国保健所長会の厚生労働省に宛てた意見書(2023年1月16日)
1月11日の「倫理的法的社会的課題」に関する提言書の詳細はYahoo!の記事で確認していただければと思いますが、簡単にいえば、現在のCOVID-19の対策は必要最小限のものとは言えないため、「感染させないための措置」いわば「隔離」を中心とした対策からCOVID-19を外すべきであるというものでした。明確に「5類移行」を求めているわけではないものの、強制的な隔離を前提としてきた「新型インフルエンザ等感染症」の扱いから、COVID-19を外すことを求める趣旨でした。
同日に公表された、「段階的移行」と「他者にうつさせない行動」の規範の必要性を強調した尾身茂氏ら感染症専門家の提言書とは明らかにトーンが異なっていましたが、メディアは従来の路線を継続しようとする尾身氏らの提言書だけ取り上げ、大きな転換を図ろうとしたもう一つの提言書については全く報じなかったのです。
それと同じことが、1月23日の感染症部会をめぐる報道でも再び起きたわけです。今回は保健所(公衆衛生医師の集団)のトップである「全国保健所長会」が出した見解にもかかわらず、メディアはまた「黙殺」したのです。
(この後の主な内容)メディアが「黙殺」した理由は何か/もうひとつあった重大な「黙殺」