「人流抑制以外方法なし」発言の何が問題か
今日未明、Yahoo!ニュースに新しい記事を配信しました。先月下旬、大阪府の新型コロナ専門家会議座長を務めている朝野和典さん(大阪健康安全基盤研究所理事長)にインタビューした記事です。
なぜ朝野さんをインタビューしようと思ったかと言いますと、大阪府新型コロナ対策本部会議資料を見ていて、専門家の意見書(1月21日)に目が止まったからでした。
この前日、私は、政府が「まん延防止等重点措置」を適用する前に、特措法の施行令が求めているインフルエンザとの病原性の比較要件をきちんと調査・検討していなかったことを明らかにした記事をYahoo!に発表したばかりでした。
・オミクロン株で肺炎の頻度は? 政府、インフルと比較調査せず「まん延防止措置」適用か 特措法違反の疑い(筆者のYahoo!ニュース個人、2022.1.21)
それと非常に近い問題意識を朝野座長が意見書で指摘していたことに気づいたのです。その中で次のような記述もありました。
「また、国⺠⽣活及び国⺠経済に重⼤な影響を及ぼすおそれがある」の点では、全数届け出、濃厚接触者も含めた隔離期間の設定という 2 類感染症相当の対応およびまん延防止等重点措置や緊急事態宣言が引き起こす事態であり、法の定めによるマッチポンプとなっている側面もある。
関西の感染症専門家の重鎮が現在の法運用に疑問を示し「法の定めによるマッチポンプ」とまで指摘している。私は急いで先程のYahoo!の記事に最後に追記したのですが、これでは多くの人の目に止まらないだろうし、意見書の文面だけではわかりにくく、真意をうかがってできれば記事化しようと思い、インタビューを申し込んだらすぐ受けてくださいました。
今日のYahoo!にはそのエッセンスしか書いていませんが、朝野さんはいろいろなことを話してくださいました。豊中市医師会の「ファーストタッチ」という取組みをぜひ伝えてほしいと言われましたので、そのことも書きました。
詳報は改めて近日中にお伝えしたいと思っています。
・大阪府専門家会議座長、オミクロン株で2類相当は「社会機能を阻害しマッチポンプ」と見直し論議を提起(筆者のYahoo!ニュース個人、2022.1.21)
経験に学んでいない「人流抑制以外方法なし」発言
ところで、先週末のNHK「日曜討論」で、各党の政策責任者による新型コロナ対策の議論が行われました。ご覧になっていない方も、Yahoo!トップに掲載されたこちらのニュースは見た方がいるかもしれません。
オミクロン株感染拡大について、自民党の高市早苗政調会長が今後、緊急事態宣言を出す可能性があると言及し、立憲民主党の小川淳也政調会長も「本当に抑えるのであれば人流抑制以外に方法はない」と発言したというニュースです。
1月30日放送のNHK「日曜討論」より(筆者撮影)
念のため録画を見返しましたが、確かにそう発言していました。
「本当に抑えるのであれば人流抑制以外に方法はない」ーこの小川氏の発言は、第5波の経験に全く学んでいないと言わざるを得ません。
詳しくは、第5波の収束が明確になった昨年9月に発表した記事に書きましたが、テレビに頻繁に登場して「人流抑制しかない」と訴えてきた専門家が「人流そのものが変わっていないのに、感染者数だけが減るのは矛盾している」と自説と現実の矛盾を認めたように、「人流が変わっていなくても感染の波は収まる」ことを私たちは経験しています。
専門家は口を揃えて「人流が増えればリバウンドが起きる、必ず感染拡大する」と唱えていたのですが、感染減少局面だった8月中旬以降、実際は「夜間滞留人口」(東京都)はずっと右肩上がりで人流は増え続けていたこともわかっています。
以下のグラフは、東京都の主要繁華街の夜間滞留人口(水色・紫色)と新規陽性者数(灰色)の推移です。
いえ、本当は、デルタ株の第5波でなくても、経験していたはずです。思い起こしてほしいのが、私たちになじみのある感染症である「季節性インフルエンザ」です。
毎年1千万人前後感染していると言われていますが、インフルエンザ流行期に「人流抑制」という人為的な政策を一度でも行ったことがあったでしょうか。毎年来る「波」は自然と収束してきたのではなかったでしょうか。
注意していただきたいのは、私は「人流抑制」が全く効果がない、効果ゼロだと主張しているわけではありません。少しは効果があるかもしれません。もちろん、各個人レベルの予防・対策も必要ないと主張しているわけでもありません。
ただ、ここで確認してほしいことは「人流抑制は感染を抑えるために必要不可欠ではない」というただ一点です。
そのことさえ確認できていれば、そして、人々の生活や社会・経済に多大な影響を与える「禁じ手」というべき下策であるという認識があれば、「人流抑制以外に方法はない」などという発言は、間違っても出てこないはずなのです。
(参考)【検証コロナ禍】人流抑制は本当に必要か?専門家は感染減少の要因を説明できていない(筆者のYahoo!ニュース個人、2021.9.13)
メディアが報じなかった重要な発言
件の日曜討論では、いまだに自民、公明、立憲の各党幹部が「人流抑制」を当然視するような発言を行っていました。
ただ、日本維新の会・音喜多駿政調会長だけが異を唱え、「人流抑制の科学的根拠は明確には示されていない。政府は先延ばしにしてきたこれまでの対策の効果検証を急いで行って結果を発表していただきたい」と指摘していました。