統一教会名称変更は"政治圧力"? 申請拒否は適法だったのか?

旧統一教会が2015年に宗教法人の名称を変更した際、それまでの変更を拒否していた運用を覆す政治判断が働いたとの"疑惑"が報じられている。だが、現在の法制度で名称変更申請を拒否することは容易でない。
楊井人文 2022.07.29
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統一教会(現・世界平和統一家庭連合)をめぐって様々なネット情報が駆けめぐっています。その中で、大手メディアも取り上げ始めたのが「名称変更」問題です。所管の文部科学省が宗教法人の名称変更申請を拒否してきたのに、2015年に認めたのは時の文部科学大臣の政治圧力ではないか、という疑惑が取り沙汰されています。しかし、これは法的観点からみると、違和感を覚える議論なのです。

というのも、宗教法人の名称変更は、法律上「許認可」制ではなく「認証」制となっており、変更申請がきて必要書類が整っていれば、原則として認めなければならず、簡単には拒否できない仕組みになっているからです。

あたかも行政側が認めるかどうか裁量権のある「許認可」制と同視し、拒否して当然、というのは、はたして現行の法制度を踏まえた議論なのだろうか、という疑問が出てくるわけです。

そこで、一連のニュースや言説について検証してみたいと思います。

名称変更の決裁書類(<a href="https://twitter.com/miyamototooru/status/1551826886929526784">宮本徹衆議院議員(共産党)のツイート</a>より)
名称変更の決裁書類(宮本徹衆議院議員(共産党)のツイートより)
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本題に入る前に、一言お断りしておきます。私は、統一教会と関わりをもったことも一切ありませんし、統一教会が抱える問題を擁護するとか正当化する考えは全くありません。追及すべき問題があれば、追及するのは当然という立場です。

ただ、これまで明らかになっている情報を総合すれば、統一教会は、安倍元首相殺害に関与しているとの疑いは生じておらず、逆に狙撃犯から敵視されていた団体です。事件をきっかけに突如この団体に注目が集まっていますが、少なからず根拠不明な言説も飛び交っており、冷静に事実に基づいた議論が必要だと考えています(以前の検証記事="統一教会"めぐる陰謀論に注意 安倍元首相銃撃で市長らも拡散=も参照)。

前川喜平氏の証言への疑問

今回の“疑惑”の引き金のひとつは、前川喜平氏の証言です。ご存知の方もいると思いますが、安倍政権下で文部科学省の事務方トップ、事務次官まで務め、天下りあっせん問題で懲戒処分を受けて退職。その後、安倍政権批判を続けてきた人物です。

その前川氏は、宗教法人制度の運用を担当する文化庁宗務課長を務めていたころを振り返り、こう証言しています(7月20日付しんぶん赤旗)。

「(1997〜98年)私が文化庁宗務課長だったときに統一協会が名称変更を求めてきたが拒否した

教義など団体の実体に変化がないと名前は変えられないと伝えた。役人は前例を重んじる。その後も同様の理由で断ってきたはずだ

名称の変更を認めてしまうと、さまざまな問題を起こしてきた教団だということがわかりづらくなり、(霊感商法などによる)新たな被害を増やす、という危機感が背景にあったとみられます(被害者弁護団の申入書参照)。

しかし、そもそも行政側は、宗教法人の名称変更を拒否できるのでしょうか、できるとしたら、どのような場合にできるのでしょうか。法律専門家なら、そういう疑問が生じるはずです。

名称変更「認証」制とは

宗教法人では法律上、会社や社団法人の「定款」にあたるものを「規則」と呼びます。会社は定款を変更すればすぐに効力を発しますが、宗教法人では規則の変更を所管庁に「認証」してもらう必要があります

実は、NPO法人にも、定款変更で所管庁の認証が必要な事項があります(東京都サイト参照)。私自身、NPO法人の事務局長をしているので、定款変更の「認証」申請手続きを何度も行ったことがあります。問題がないかどうかチェックを受けますが、法律違反などよほどのことがなければ認証されないということはありません。それと同様の仕組みが、宗教法人にも設けられているわけです。

宗教法人法には「規則変更の認証」という手続きがあり(第27〜28条)、所管している文化庁のサイトでは、次のように説明しています。

認証においても、所轄庁は、法の要件が備えられていると認めたときは、裁量の余地なく、認証しなければなりません。ただし、認証は機械的に行われるものではなく、所轄庁は、審査に当たって事実の存否に理由ある疑いを持つときには、その疑いを解明するための調査を行います。
宗教法人の規則変更のしくみ(<a href="https://www.bunka.go.jp/seisaku/shukyohojin/kanri/henko.html">文化庁</a>より)
宗教法人の規則変更のしくみ(文化庁より)

「裁量の余地なく」というのがポイントです。

行政法の教科書にも、宗教法人の規則に関する「認証」の意味について「信教の自由に対する配慮から、国家が宗教法人の設立につき裁量判断の余地をもつことが適当でないという観点から、規則の合法性を公に確認する行為として『認証』という用語が選択された」のであり「『認証』の法的性質は、分類論からすれば裁量の余地のない『確認』に属し、特許でも許可でもない」と解説されています(橋本博之など「行政法」弘文堂)。

もちろん「認証」制度は、申請すれば100%通るというわけではなく、法律上の要件を満たすことが前提です。ですが、調べた限り、宗教法人の名称変更に関する特別な規定はありませんでした。念のため、文化庁宗務課にも確認しましたが、名称変更を拒否できる場合を定めた内部基準もなく、「(この宗教法人に限らず)過去に、名称変更の認証申請を受理して認めなかった(不認証にした)事例はない」とのことでした。

つまり、法人内部の適正な手続きを経て、特に法令違反がなければ、名称変更を認証しなければならない仕組みになっていたのです。

名称変更申請拒否は適法か?

では、前川氏の「拒否」証言は何を意味するのか。2020年12月には次のようにツイートしていました。

前川喜平(右傾化を深く憂慮する一市民)
@brahmslover
1997年に僕が文化庁宗務課長だったとき、統一教会が名称変更を求めて来た。実体が変わらないのに、名称を変えることはできない、と言って断った。
本田由紀 @hahaguma
https://t.co/o8CGINWrgV「下村と統一教会との関係を調べると、同教団系の日刊紙『世界日報』に直近の2年間で3回もインタビューや座談会記事が掲載されており、同紙の月刊誌『Viewpoint』にも転載されていた。」
2020/12/01 12:38
3085Retweet 5878Likes

しかし、宗教法人法をみる限り「実体が変わらなければ名称変更できない」というような法的規制は設けられていないのです。

東京新聞の記事にヒントがありました。

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  • 〈まとめ〉問題を整理し、冷静な議論を

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