台湾総統選で「対中強硬派」レッテル貼り報道 何が問題か

台湾の総統選では民進党候補を「対中強硬派」と報じるものが一部に見られたが、実際はどうなのか。追い上げてきた国民党が最終盤で失速した要因とは。
楊井人文 2024.01.16
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台湾の総統選が1月13日に実施され、蔡英文総統の後継として立候補した現職副総統の頼清徳氏が当選し、日本でも大きく報道されました。台湾に関する報道は昔に比べると格段に質・量が向上してきた面がある一方、ステレオタイプのレッテル貼り報道もありました。

民進党や頼候補は「親米・反中」「対中強硬」といったものです。

民進党の頼候補を「対中強硬派」と報じていたテレビ画面

民進党の頼候補を「対中強硬派」と報じていたテレビ画面

様変わりした日本の台湾関連報道

まず、報道の問題点に入る前に、日本の台湾関連報道自体は、質・量とも向上してきているということを指摘しておきたいと思います。

私は2000年前後に大学で台湾問題を研究していたこともあり、四半世紀近く台湾関連の報道をウオッチしてきましたが、年々、日本での台湾報道の扱いが大きくなってきたと感じています。実際にNHKの「台湾」がタイトルに入ったニュースの数を調べてみると、約40年間で次のように推移していました。

筆者作成

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理由はいくつか考えられますが、一党独裁の中国とは対照的に民主化が順調に進んだ台湾への再評価、東日本大震災での台湾からの義援金、そして高まる台湾海峡の緊張などが考えられるでしょう。

質的にも変化がみられます。私がとくに注目したのは、公共放送であるNHKが、「中華民国」という台湾の正式な国家名に言及した報道が増えたことです。

一例を挙げると、次のようなものです。

(総統選挙に立候補している頼清徳氏)「私は引き続き、台湾社会を『中華民国台湾』として結束させていく。地域の覇権主義の拡張に対し、民主的な憲政を守り、現状を維持する」と述べ、台湾の現状維持を強調しました。
・・・「中華民国台湾」という言い方は、現在の最大野党の国民党がかつて中国大陸を治めていた歴史的経緯もふまえて、蔡英文政権が台湾社会を団結させようと、よく使うようになったもので、頼副総統としては、これに言及することで蔡総統の路線を継承して中国との関係を慎重に処理するという姿勢を示した形です。

このほか、台湾の政治体制について「中華民国」パスポートなども載せた、詳しい解説記事も配信していた。

日経新聞も特設サイトを2つオープン立ち上げていました。

ビジュアル面はかなり力を入れており、投票用紙や、同時に行われる立法院選の選挙制度などマニアックな情報も盛り込み、わかりやすく作られていました。

対話を拒否しているのはどっち?

今回の総統選の結果も、新聞各紙の大半が一面トップで大きく報じました。

海外の選挙をここまで詳しく報じられるのは、アメリカ大統領選以外では、台湾の総統選くらいではないかと思います。

ただ、一部メディアでは「対中強硬派」などのレッテルを貼った報道もみられたのです。

テレビの事例は冒頭でいくつか紹介しましたが、全国紙では、日経新聞が一面見出しで「対中強硬路線を維持」と報じました。時事通信も、同様の報じ方をしていました。

蔡政権も、(今年5月に発足する)頼新政権も「対中強硬路線」のようです。いったい、「対中強硬」と形容する根拠はどこにあるのでしょうか。

以前の解説記事でも説明しましたが、中国と台湾(現地では「両岸」と呼ぶ)の対話が止まっているのは、民進党が対話を拒否しているからではなく、中国側が民進党を対話相手とみなさない方針を貫いているためです。

***

(この後の主な内容)
▼民進党が対話を求めても中国が拒否する理由
▼国民党が最終盤で失速した要因は?ある発言と、ある動画
▼立法院の過半数割れは織り込みだった?
▼これからの4ヶ月が台湾にとって試金石

『楊井人文のニュースの読み方』は、今話題の複雑な問題を「ファクト」に基づいて「法律」の観点を入れながら整理して「現段階で言えること」を、長年ファクトチェック活動の普及に取り組んできた弁護士の楊井がお届けしております。

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