ネット情報のファクトチェックに意味はあるか?アワード受賞作から考える (2/2)
優れたファクトチェックの成果を表彰する「ファクトチェックアワード2023」で6作品が受賞しました。
今回は「社会的言説」「無名言説」をファクトチェックした3作品について取り上げ、ファクトチェックには何が期待されているのか、考察を進めてみたいと思います。
(社会的言説・無名言説といった分類上の定義については、前回記事を参照)

『楊井人文のニュースの読み方』は、今話題の複雑な問題を「ファクト」に基づいて「法律」の観点を入れながら整理して「現段階で言えること」を、長年ファクトチェック活動の普及に取り組んできた弁護士の楊井がお届けしております。
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「高額医療費負担廃止検討」のニュースをめぐる他制度との混同のおそれについて注意を喚起した記事 (リトマス)
これは、財務省が「高額医療費負担金制度」の廃止を検討しているというニュースが、別制度である「高額療養費制度」と混同されて、誤解が広がっていることを指摘した記事です。元のニュースは毎日新聞が出したもので、それ自体は正確なものと判定されています。
元のニュースは正確だったが、制度についての誤解が広がってしまっていることについて注意を喚起した、という内容です。
どういう誤解が生じていたか。当時の毎日新聞の記事に対して投げかけられていたTwitter上のコメントをみると、この制度がなくなると医療費負担が大幅に増えてしまうという認識をしている人がいたことがわかります。

ごめんすぐ明細見つからなかったけど、この制度無いとひと月50万(を半年分)とかかかってしまうはず😨😰
高額医療費負担、財務省「廃止を」 省庁の無駄、予算執行調査 | 毎日新聞 mainichi.jp/articles/20220… 高額医療費負担、財務省「廃止を」 省庁の無駄、予算執行調査 財務省は26日、各省庁の事業の無駄を調べる予算執行調査の結果を発表した。75歳未満の自営業者や無職の人が加入する国民健 mainichi.jp

患者に高額の医療費が発生した場合、窓口での負担額を軽減する制度として「高額療養費制度」があります。厚労省に高額療養費制度のページがありますが、次の図がわかりやすいでしょう。
しかし、毎日新聞が「廃止検討」と報道したのは、この「高額療養費制度」ではありません。
名前が似ていてややこしいのですが、「廃止検討」されたのは「高額医療費負担金制度」の方でした。
これは、高額の医療費の負担を、自治体の保険料で賄っている部分の一部を国・都道府県が代わりに負担するという制度で、あくまで「国保財政」の内部的な分担割合の話です。一般患者の窓口での支払い額に直接的に影響する話ではありません。
とてもわかりにくい話なので、こちらの財務省の図の資料をみると、少しイメージがつくかもしれません。

財務省の資料より
国民健康保険制度の財政は保険料と公費で半々ずつというのが原則ですが、本来保険料で賄う部分の一部を公費で肩代わりするのが「高額医療費負担金制度」。この制度がなくなると、国や都道府県が肩代わりしていた高額医療費の一部を、保険料で賄うことになりますから、従来の保険料収入に不足があれば、「将来的に保険料が上がる可能性」は否定できません。とはいえ、患者の自己負担額を軽減する「高額療養費制度」がなくなるというわけではないということです。
ここまで説明されると「高額医療費負担金制度」と「高額療養費制度」は全く別物だと理解できますが、正直言って、私もこのリトマスの記事を見るまでは、「高額医療費負担金制度」について知りませんでしたし、知らなかった人が多いのではないかと思います。
ですから、この毎日新聞の記事、特に見出しだけを見れば、「自己負担額が軽減される高度療養費制度がなくなってしまう!」と勘違いする人がいても不思議ではないし、責められることでもないでしょう。
選考委員の方々はこのファクトチェック作品を「大賞」に選出しました。
このファクトチェックは、特段の取材やデータ分析が必要というわけではありません。他の優秀賞を受賞した5作品と比べても、手間暇はそれほどかかっていなかったと思われます。
それでも、この作品を選考委員が「大賞」に選んだ理由を私なりに解釈してみます。