厚労省に開示請求 2ヶ月かけて出てきた一枚の文書の中身

COVID-19ワクチンの健康被害救済制度で死亡事案の救済申請は、現在どれほど受理されているのか。厚労省の公開資料では明らかにされていない情報を開示請求した結果を報告する。
楊井人文 2023.08.30
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新型コロナ(COVID-19)ワクチンの健康被害の審査状況についての詳細を確認するため、厚生労働省に文書開示請求をしたところ、5月26日時点で死亡事案の申請が741件だったことが、このほど開示された文書で明らかになりました。

開示請求をしてから約2ヶ月後に出てきたのは、作成者も作成日も記されていない、わずか一枚の文書。その内容と経緯をご報告します。

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なぜ文書開示請求をしたのか

このニュースレターで6月、COVID-19ワクチンの健康被害救済申請が増加し、多くの審査が滞留している問題で、公表されていない死亡事案の申請件数が国会答弁で明らかになったことをお伝えしました。

厚生労働省は、健康被害救済制度に基づく審査会の公開資料で、その都度、申請受理件数を公表していますが、死亡事案の申請受理件数といった内訳については公表していません。申請件数や審査結果の全体像については、審査会の資料の中で、次のように記載されているだけです。

この総数のうち、死亡の認定件数などの内訳は資料に書かれていないので、それを知るには手作業で数えていくしかありません(筆者はそのためのデータベースを作成しています)。トータル50回分の審査会の資料からデータを集計すると、最新の8月21日の公表時点で156件の死亡事案が認定されていることが確認できます(NHKも報道)。ところが、この数字は厚労省サイトで公表している資料には載っていないのです。

(【追記】8月30日の審査会の審査結果資料が公開され、新たに54件の死亡事案が被害認定されています。これで死亡事案は合計200人を超えたとみられます。)

認定件数は数えれば何とかわかりますが、申請受理件数の内訳は全く不明です。4月18日の国会答弁で死亡事案の申請件数は明らかになったものの、その後の最新情報は取材をしても回答してくれませんでした。

これは広く国民が知るべき情報であり、非公開にすべき理由はないと考え、文書開示請求手続に踏み切りました。

国会答弁についてお伝えした記事を配信して翌日のことです。

(参考記事)

開示請求の内容

開示請求から開示決定に至る経緯は次の通りです。

 6月6日 厚労省に開示請求書を提出(電子申請)
 6月7日 審査開始(※)
 7月24日 手続終了(※)
 8月4日 開示決定通知(文書を郵送で受領)
 8月21日 開示の申し出(電子申請)
 8月23日 文書開示(e-govでPDF開示)
 (※)e-gov電子申請の画面にて表示

行政文書の開示請求手続は、誰でも行えるものですが、決してわかりやすい制度ではありません(総務省の情報公開制度のページ参照)。

また、ほとんどの行政機関は窓口か郵送での手続きが必要ですが、厚生労働省では電子申請を受け付けているため、今回これを利用しました(ほかに国土交通省も電子申請で受け付けているようですが、あの「デジタル庁」ですら窓口または郵送という「アナログ」でしか受け付けていません)。

6月6日に開示請求したのは、5月末時点での、COVID-19ワクチンの健康被害審査にかかる進達受理件数の内訳についての情報です。

健康被害救済制度では、予防接種による疾病を治療した場合に支払われる「医療費・医療手当」、後遺障害が残った場合に支払われる「障害児養育年金」「障害年金」、死亡した場合に支払われる「死亡一時金」「葬祭料」があります。そこで、それぞれの給付の種類別の申請件数の開示を求めました。

また、被害者の年齢別もしくは年齢層別の申請件数、性別の申請件数の開示も求めました。

さて、法律上は、請求から30日以内に開示するのが原則となっていますが、さらに30日以内で延長し、それでも間に合わない場合はさらに延長することも可能となっています(行政機関情報公開法10条、11条)。30日以内に開示することは少なく、多くのケースで延長されるようです。

今回も延長の通知があり、開示請求から約2ヶ月後の8月4日に開示決定通知がきました。

開示決定文書の内容

届いた開示決定文書がこちらです。

厚労省から届いた行政文書開示決定通知書

厚労省から届いた行政文書開示決定通知書

実は、これを見て、私は「不開示決定」と早とちりしてしまいました。

というのも、まず「2 不開示とした部分とその理由」の方に目が行き、私が請求した内容について「取得」も「保有」もしていないという理由で、全部不開示と通知してきたかのように読めてしまったからです。

「そんなはずがない、国会答弁で厚労省の審議会が死亡事案の申請件数を答弁しているし、その情報を記した文書がないはずがない」と頭にきて、不服申立ての手続きに入ろうと考えていました。

この頃、体調がよくなかったこともあり、しばらく放置し、改めて体調を取り戻してから読み返してみました。

すると、タイトルに「行政文書開示決定通知書」とあり、「1 開示する行政文書の名称」と書いてあるではありませんか。

ということは、この通知書は「不開示」ではなく、何がしかの文書を開示する決定をしましたよ、という通知なのでした。

これまでにも何度か行政機関等に文書開示請求をしてきた経験はあるのですが、お恥ずかしい限りです。

この後、厚労省に出向いて文書を閲覧するか、写しを郵送してもらうか、電子文書として開示してもらうか、を選択する「開示の実施の方法等の申出」という手続きをしなければなりません。

慌ててこの申し出を電子申請で行ったのが、開示決定通知から約2週間後の8月21日。

2日後にPDFで開示されたのが、たった一枚の、以下の文書でした。

***

(この後の内容)
▼開示文書の内容 新たに明らかとなった事実
▼なぜ最初から公開しないのか 改めて浮き彫りになった情報公開の消極姿勢

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続きは、1617文字あります。
  • 開示文書の内容 新たに明らかとなった事実
  • なぜ最初から公開しないのか 改めて浮き彫りになった情報公開の消極姿勢

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