19歳の心筋炎死亡例も被害認定 岸田首相の若者への呼びかけ後に接種か
厚生労働省が新型コロナ(COVID-19)ワクチンの健康被害救済制度に基づき、9月22日までに949件の死亡事案の申請を受理していたことを公表しました。
これまで、死亡事案の受理件数は国会答弁や情報開示請求などで明らかとなったことはありますが、6月以降の情報は出ていませんでした。一般の公開資料で公表されたのは、56回を数える審査結果発表で初めてのことです。
厚生労働省 疾病・障害認定審査会の資料(2023年9月27日公表)より
実は、前回のニュースレターで、5月26日時点で741件という情報が開示されたことをお伝えした後、最新情報については不開示決定が出ていました(8月31日付)。
不開示の理由を尋ねると「国会議員からの問い合わせがあれば集計して作成するが、その後は問い合わせがないので作成していない」(文書不存在)というものでした。国会議員から問い合わせがないと死亡事案の受理件数を把握することはない、というのは理解しがたいので、今後も毎月のように情報開示請求を続けていく意向を担当者に伝えたのが9月26日。すると、翌日に公開された資料の中で記載されたのです。
死亡事案の認定件数(269件)が資料に明記されたのも、今回が初めてのことです。
本来は問い合わせや情報開示請求等がなくても公表すべき重要なデータだったと思いますが、ようやく公表に転換しました。
これにより、現在少なくとも665件の死亡事案が審査未了であることも明らかとなりました。詳しくは、昨日Yahoo!に記事を配信しましたので、ご覧ください。
実は、もう一つ明らかになった重大な事実があります。
9月22日の審査会で、接種後に心筋炎で死亡した19歳男性2人が被害の認定を受けていたことが明らかとなりました。これも非常に重大な事実だと思いますが、驚くべきことに、全く報道されていません。
今回は、これまでの接種の経緯をふりかえり、若年者の被害事例を防ぐことができた可能性について検証します。
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副反応疑い報告でも心筋炎で死亡の19歳は2例
健康被害救済制度の審査会による審査結果の資料には、年齢、性別、病名、基礎疾患・既往症、審査結果(認定・否認・保留)しか掲載されていません。ですので、今回認定された19歳男性2人についても、ワクチンの種類や接種時期、回数といった情報は掲載されていません。
1人は「医療費・医療手当」と「死亡一時金・葬祭料」の両方が認定されていますが、もう1人は「死亡一時金・葬祭料」だけ認定されているので、医療措置を受けることもなく亡くなったと考えられます。
健康被害救済制度とは別に運用されている「副反応疑い報告」制度で、類似の事例が報告されていないか調べたところ、厚労省の資料に、19歳男性で心筋炎で死亡した事例がちょうど2例、掲載されていました。(副反応疑い報告データベースも参照)
健康被害救済制度で認定された2人と同じ事例である可能性が高いとみられますので、概要を記します。
No.1619 19歳男 接種日:2022年5月1日 死亡日:同年5月11日 ファイザー(コミナティ筋注)3回目 (1回目、2回目はモデルナ)
3回目接種後、微熱、咳、鼻閉感が出現し、接種翌日かかりつけ医受診。呼吸音問題無く、SpO298%(室内気)。シムビコート、抗ヒスタミン 薬、鎮咳薬を処方され、症状悪化が見られないため、検査なく帰宅。接種3日後の早朝、突然大声を上げた後、意識消失し救急要請。救急隊接触時初期波形心室細動であり、除細動複数回施行するも停止せず、気管挿管、心肺蘇生継続した状態で搬送。搬送後も心室細動継続。アンカロン、アドレナリン投与下で除細動施行しても止まらず、経皮的心肺補助を導入、ICU入室。その後頭部CTにて低酸素、ヘルニア状態、心機能改善見られず、接種10日後に死亡。時系列(ワクチン接種後3日目の発症)と心筋炎の原因となるその他の因子を認めないことから、今回の事象の原因がワクチン接種である可能性は十分に考えられる。
No.1762 19歳男 接種日:2022年7月29日 死亡日:同年8月1日 ファイザー(コミナティ筋注)3回目 (1回目、2回目はモデルナ)
令和3年に1回目と2回目はモデルナワクチンを接種。3回目はファイザーワクチンを接種。接種部の痛みと 37.4℃の発熱、脇腹の痛み、倦怠感など有り。接種3日後ベッドの上で死亡発見。死亡発見となった翌日の行政解剖の結果、心筋炎を伴う急性循環不全で死亡と判断された。
2人とも共通しているのは、いずれも特筆すべき基礎疾患はなく、1、2回目はモデルナ製ワクチンを接種し、オミクロン株が主流化した後、3回目の接種をファイザー製で受け、その3日後に心筋炎を発症し、死亡に至っていることです。
一方は意識消失のまま治療を受けて1週間後に亡くなったケース(No.1619)、もう一方は発見時すでに亡くなっていたケース(No.1762)なので、健康被害の認定結果(一方は「死亡一時金・葬祭料」と同時に「医療費・医療手当」の給付も認定。もう一方は「死亡一時金・葬祭料」だけが認定)とも符合しています。
副反応疑い報告では、いずれも「ワクチンと症状名との因果関係が評価できない」(γ)判定となっていますが、そのうち1人は「今回の事象の原因がワクチン接種である可能性は十分に考えられる」との所見が示されていました。(現時点で、副反応疑い報告制度のもとで「因果関係が否定できない」(α)と判定されたのは、後述する14歳女子を含め、2例のみ)
断定はできませんが、副反応疑い報告でγ判定とされていた19歳男性の2人が、健康被害救済制度の審査において接種との因果関係が認定された可能性が高いと考えられるのです。
若年者の心筋炎リスク 2021年6月に指摘 厚労省は接種メリットを強調
COVID-19のmRNAワクチン(ファイザー、モデルナ)接種後の心筋炎リスクは、特に若年者男性で顕著であることは、最初の接種が始まってからまもなく、明らかになっていたことです。私は、若年者の接種を、強く勧奨することを見合わせるタイミングは、いくつかあったのではないかと考えています。
以下、これまでの経緯をざっとふりかえり、検証してみます。
まず、若い男性に心筋炎が多発しているという事実は、2021年6月ごろにはロイター通信などが報道していました。
事前に「アナフィラキシー」の副反応はあり得ると言われていましたが、「心筋炎」は治験では明らかになっておらず、大規模接種を進める中で初めて明らかになったものでした。「治験段階で安全性は慎重に確認されている」という当初の説明とは、明らかに矛盾する情報でした。
ところが、この新たなリスク情報が出てから間もない頃に、職域接種や大学拠点の大規模接種が始まったのです。
当時は、デルタ株の脅威が強調され、東京五輪を控え、菅義偉首相(当時)の「1日100万回」の号令のもとで無差別的な接種奨励が行われていた時期と重なります。
政府も当時から、心筋炎リスクに着目はしていましたが、軽症の場合が多く「接種のメリットの方がはるかに大きい」と強調していました。
その後も、心筋炎の報告は徐々に増えていきます。特に、10〜20代男性の発症頻度が顕著に多いことがわかってきました。
そこで、厚労省は、10月15日、10〜20代男性向けのリーフレットを作成します。
ただ、これは「新型コロナに感染した時の方が心筋心膜炎のリスクがはるかに高い」との印象を与え、若い男性に接種をむしろ奨励する内容となっていました。
改めて指摘しておくと、この比較グラフには、次のようにいくつもの「情報操作」がありました。
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「新型コロナにかかった場合」の心筋炎頻度として示された「100万人あたり834人」の元データ(実数)は「4798人中、4人」という極めて限られたデータから算出されたもので、委員からも疑問が示されていた(なお、比較対象である接種後の心筋炎発症者は、この時点ですでに100人を大きく超えていた)
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この元データの母数の「4798人」は「感染者」数ではなく、30代を含む「入院者」だった(接種者の母数は12〜29歳、入院者の母数は15〜39歳で、母数の年代が不一致)。未接種の若年者が新型コロナに感染する確率や、感染後入院に至る確率が極めて低いことを全く考慮せずに算出したもので、感染時のリスクを極めて過大に評価していた。感染者の入院リスク(神奈川県のデータによれば当時、10〜20代は1〜2%程度)を踏まえると、感染による心筋炎発症リスクは、「100万人あたり834人」よりはるかに低かった(50分の1以下と推定される)と考えられる
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逆に、ワクチン接種時の心筋炎発症リスクは、過小に評価されていた。報告件数が日増しに増え、12月にはモデルナを接種した10代男性の心筋心膜炎は100万人あたり100人を大きく超えていた。しかし厚労省は10月15日時点のデータを更新せずに、リーフレットによる広報を続けた(撤回は翌年7月か8月ごろとみられる)
こうしたデータを冷静にみてみれば、10〜20代の男性に限っていえば、心筋心膜炎の発症リスクは感染時より接種時の方がはるかに高かった可能性が高く、真逆の情報を発信していたことになるのです。
3回目接種が始まった2021年12月初めには、ようやく「心筋炎、心膜炎」が「重大な副反応」と明記されました(NHK)。
ところが、その後にも、河野太郎ワクチン担当大臣(当時)は、若者が多く視聴しているであろうYouTubeで、感染するとかなりの割合で心筋炎が起きるが、ワクチン接種で心筋炎になる確率は小さく軽症だという、従来の厚労省リーフレット等に沿った説明をしていたのです。
質問の中で心筋炎というのが話題になってますが、ていうのがありますが、これ別に、いま話題になってますけど、これ前から言われている話ですけれども、新型コロナウイルスに感染すると心筋炎、かなりの割合、それから結構重症の心筋炎になる方がいます。
ワクチンでも心筋炎になる人がいるんですけども、確率的にも小さいし、軽症です。
ほとんどの人は回復しています。
ですから、心筋炎だ、ワクチン打ったら心筋炎だとまた反ワクチンの人が騒いでますけれど、それは全然気にすることはありません。
リスクよりベネフィットの方がはるかに大きいっていうのはその通りですから、特にワクチンについて何かが変わるということはありません。
コロナワクチン「重大な副反応」に明記された心筋炎リスクについて説明する河野太郎氏(YouTube)
ちなみに、大阪府が公開した詳細な年代別データをみれば、「デルタ株」の脅威が騒がれ、東京五輪無観客開催になった2021年夏〜秋にかけても、20代以下の重症化率・致死率は極めて低い水準だったことも想起されるべきです。
【大阪府の第5波(2021年6月21日〜12月16日)のデータ】
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10代以下 新規陽性者:22,424人、重症者:3人、死者:1人
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20代 新規陽性者:27,012人、重症者:25人、死者:0人
もともと重症化リスクが非常に低い若年者に対し、「若者も重症化の可能性がある」という、「リスクがゼロではない」という限りでウソではないものの極めてミスリーディングな説明を繰り返しながら、2022年以後も頻回接種を奨励していったのです。
筆者作成
重症化率低下後も若者に強く接種奨励 その後接種して亡くなった人も
2021年終わりからオミクロン株に置き換わり、肺炎の症状もほとんどなくなり、重症化率がさらに低下しました。
ところが、その後も、年代を問わないワクチン接種奨励は続き、特に、極めて重症化率が低いことが明白であった若者に対しても、接種の呼びかけが行われています。
2022年4月、分科会の尾身茂会長は若年者への呼びかけを岸田首相に進言。それを受けて岸田文雄首相が呼びかけを行い、さらには「若者のワクチン接種編」と称する政府広報動画を公開するなどして、メディアもそのたびに大きく報じたのです。
その冒頭で「若い方々でも、新型コロナに感染し、重症化する方もいます」と岸田首相が語っています。
オミクロン株で感染者数が大幅に増えたことは事実ですが、若者の重症化リスクについて、改めて大阪府の資料から確認すると、極めて低い水準だったことがわかります。
【大阪府の第6波(2021年12月17日〜2022月6月24日)のデータ】
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10代以下 新規陽性者:249,693人、重症者:20人、死者:1人
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20代 新規陽性者:133,701人、重症者:12人、死者:0人
オミクロン株の重症化リスク低下が広く知られるようになった後も、ワクチン担当相を退いていた河野太郎氏は、「反ワクチンデマに惑わされるな」とTwitterで接種を呼びかけていました。
そして、先ほど確認したとおり、健康被害の認定を受けたとみられる19歳男性2人は、それぞれ2022年5月1日、7月29日に3回目の接種を受け、心筋炎を発症し亡くなっています。
彼らが3回目の接種をしたのは、まさに、尾身会長らが進言し、岸田首相が若者に「早期の3回目接種を」と、河野氏が「反ワクチンデマに惑わされず、3回目接種を」と呼びかけていた2022年4月からもまもない時期のことだったのです。
さらに、中学生女子(14歳)も2022年8月に接種した後、心筋炎を発症し亡くなっています(徳島大学の法医学者が解剖を担当し、ワクチン接種による心筋炎が死因だったとする査読付き論文を専門誌に発表(NHKニュース)。その後、副反応部会で因果関係が否定できないと、2例目の「α」認定を受けています)。
筆者作成
他にも、副反応疑い報告制度の資料をみてみると、2022年以後も、20代以下の接種後死亡事例は複数、報告されています。