「衆院解散は首相の大権」は本当?9つのQ&Aでフカボリする
岸田文雄首相が退陣し、新たに発足した石破茂首相が近く衆議院を解散し、10月27日に総選挙を行う方針を表明しました。総裁選中は早期の解散に慎重姿勢を見せていただけに、石破氏の「言行不一致」に批判や失望の声が高まっています。
そもそもなぜ解散・総選挙を行うことにしたのでしょうか。メディアの報道ではよく、解散権は「首相の大権」だとか「首相の専権事項」とも言われたりもしますが、本当なのでしょうか。
能登半島での災害で選挙どころではないという話もありますが、解散権の行使なのだとすれば止める方法はないのでしょうか。
今回は「衆議院解散」をめぐる様々な疑問について、基本のキから一挙に解説していきます(どこから読んでも可能です)。
Q1.そもそも「衆議院を解散する」というのは、どういうことですか?
Q2.衆議院の解散は「首相の専権事項(大権)」とも言われていますが、本当ですか?
Q3.「7条解散」とか「69条解散」とか聞きますが、どういうことですか?
Q4.衆議院の解散は自由に行っていいものなのですか?ルールや基準はないのですか?
Q5.石破さんは、もともと衆議院の解散についてどのような考えを持っていたのですか?
Q6.石破さんが衆議院の解散について考えを変えたとすれば、それはなぜですか?
Q7.石破さんは「新しく政権ができたので、できるだけ早く信を問う」と説明していますが、こうした理由での解散は普通のことですか?
Q8.石破さんは首相に就任する前に解散を発表しました。憲法違反だという指摘もあるようですが、そうなのですか?
Q9.衆議院解散をやるべきではない場合に、やめさせる方法はないのですか?
Q1.「衆議院解散」とは?
ーー そもそも「衆議院を解散する」というのは、どういうことですか?
ひと言で言えば、衆議院と内閣を両方とも、一から作り直すことです。
衆議院解散というと、衆議院議員だけ選び直すように思われるかもしれません。
ですが、「議院内閣制」のもとでは、内閣(行政府)は国会(立法府)の信任を得て成り立ちます。衆議院の総選挙をしたならば、国会の構成が一新されるわけですから、当然、内閣も新しく発足しなければならないのです。
筆者作成
つまり、衆議院解散は、議員を任期途中でクビにして、総選挙で選び直し、首相も改めて選んだ上で、新政府(内閣)を発足させる、ということを意味します。
衆議院議員の任期は4年間です。現在の衆議院議員の任期は来年(2025年)10月30日までです。ですから、10月9日に解散をすれば、任期を1年あまり残した状態で、衆議院議員を解職することを意味します。
解散の結果、ただちに衆議院議員は全員、身分を失い、総選挙が終わるまで衆議院議員がいなくなります(参議院議員は残っていますが、衆議院解散により参議院を含む国会は閉会となります)。
ただし、内閣は、衆議院解散後もしばらく残ります。行政府の空白が起きないようにするためです。首相も大臣も衆議院議員の身分を失い、いわば「ただの人」になりますが、総選挙後最初の国会で内閣総辞職となり、内閣総理大臣が任命されるまでは、内閣の職務を続けることになります(憲法70条、71条)。
したがって、10月1日に発足したばかりの石破茂内閣は、10月9日に解散した後も当面残ります。総選挙の結果にかかわらず、総選挙後の「特別国会」冒頭で総辞職することになります。
そして、改めて、石破さんが内閣総理大臣の指名を受けることになれば、大臣を任命しなおして「第2次石破内閣」を発足することになります。
総選挙で政権与党が過半数を獲得できなかった場合、あるいは石破さんが責任をとって自民党総裁を辞任し、新たな総裁が選ばれた場合は、石破さん以外の人が内閣総理大臣の指名を受けることになるでしょう。そうすると、石破政権はわずか1ヶ月ほどで幕を閉じることになります。
今回の総選挙の結果しだいで、その可能性もないわけではありません。
筆者作成
Q2.解散は首相の専権事項?
ーー 衆議院の解散は「首相の専権事項(大権)」とも言われていますが、本当ですか?
メディアも政治家も、しばしば衆議院の解散は「首相の大権」とか「首相の専権事項」と言うことがあります。
衆議院の解散は、「内閣」の助言と承認により天皇が行う国事行為です(憲法7条)。解散を決定するときは、内閣の全員一致による「閣議決定」が必要となります。
政府も、「総理の専権事項なのか?」という質問に対し、はっきりと、衆議院の解散を決定する権限を有するのは「内閣」だと答弁しています。少なくとも、政府の公式見解は「首相の専権事項」ではありません。
宮澤喜一内閣が1993年6月18日、内閣不信任案を可決された際に衆議院解散の閣議決定をしたときの公文書。各大臣が「花押」をもって署名する慣わしとなっている(国立公文書館デジタルアーカイブより)
ただ、実態として、多くのケースで、解散を打つタイミングを首相が事実上決めてきたという歴史があります。
首相は大臣を解任する権限(憲法68条2項)があり、反対する大臣をクビにして強行しようと思えばできないわけではありません。そうしたことが「専権事項」と言われる所以でしょう。
現に、小泉純一郎首相は「郵政解散」(2005年)の時に、4人の閣僚が反対し、最後まで翻意しなかった島村宜伸農林水産大臣を解任して、解散を強行しました。このときは、小泉首相が一時的に農水相を兼任しました。
他方で、閣内の反対にあって解散を断念した首相も複数います。
三木武夫首相は、「三木おろし」と呼ばれる倒閣運動に対抗するため解散をしようとしましたが、15人の閣僚が反対。15人とも罷免することも検討したものの、断念したと言われています(1976年。その後、任期満了に伴う総選挙で敗北し、退陣)。
海部俊樹首相も、解散しようとして閣内の支持を得られず断念した例として有名です(1991年)。
いずれにせよ、最終的に大臣罷免権という"伝家の宝刀"があるとはいえ、全員一致の閣議決定が必要で、首相の一存だけで決められるものではないということです。
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